冨貴工房へようこそ

ヘンプつっかけ、ヘンプ足袋などのオーダーメイド制作を行っています。※工房への来訪はお断りしています。

冨貴工房での染めの記憶


今日から大阪を数ヶ月離れることになりました。

大阪中津の冨貴工房での染めは一旦停止になります。

染めのための道具一式は、僕と妊娠後期の家内と共に愛知県岡崎に来ています。

たぶん今後2ヶ月はここで染めをしていくことになります。
(命のことなので予定は未定ですが)

今まで頂いているオーダーについても、ここで作っていくことになります。
(オーダーメイド、引き続き承ります)

今日は初めて岡崎にある吉村医院の母子保健室で茜染めをしました。

手仕事が盛んだった100年前までの日本において、工房というスペースや、鍋やタライなどの道具は、すべて体の大きさ、肘や肩などのパーツの長さなどに合わせてデザインされていました。

昔ながらの木べらは女性の上腕の長さに合わせてあるし、箸の長さも指の長さに対応しています。

柄杓も箒も、日本古来からの生活用品は、日本人の体型に合わせて作られています。

そして、ものをはかる単位そのものも、上腕の長さや指の長さなど、体のサイズを元にしていました。

冨貴工房においても、この7年間の仕事中に、作業台の高さや幅、火元と水回りと作業場の距離感などを、歩幅や腕の長さに合わせて徐々に調整しながら、長年かけて少しずつ場を作ってきました。



染液や媒染液の量も「このタライで一杯」「この手鍋で五杯」と、使い慣れた道具を単位にして測ってきました。



工房を離れるということは、こういった全てを一端リセットするということです。

場の特質や個性を少しずつ感じ取り、動きやすい状況を少しずつ作りながら、少しずつ染めの作業そのものに意識を注入することができるようになっていくのでしょう。

そのプロセスが今日から始まりました。

これから試行錯誤を重ねる中で、今まで冨貴工房で積み重ねてきた所作や動き方の癖を手放すことは避けられないでしょう。

何かを新しく始めること、新しい発見を得る過程の中で、何かを手放したり、忘れていくこともあるでしょう。

そして、再び大阪に戻ってきた時には、生活そのものが一変していることでしょう。

抱っこ紐やおんぶ紐で赤子を抱えたまま染めているかもしれません。

命のプロセスに決められた予定はありませんから、何がどうなっているかは全くわかりません。

何がどうなっているかは、正直想像もできませんし、想像すること自体を手放しています。

ということで、今までの染め、とりわけ最近の染めについて、記憶をたどって記録をしておこうと思います。

何のためになるのかわかりませんが、せっかく写真を撮ったので、ここに置いておきます。


・・・・



冨貴工房での染めは九割がた無地の染めです。

日本にはたくさんの色の名前が存在します。

赤、暁、朱、唐紅、紅、茜、丹。

朝焼けや夕焼け、季節ごとの太陽光の違い。

その機微を細かく感じてきた日本列島人の感性の記憶を取り戻す事。

それは僕にとってリハビリのようなものです。

大切な事を忘れてしまったという実感と共に、忘れたことも、行動や実践を通じて思い出すことができると言うことを実感しています。

頭が忘れても、体が覚えていることがある。

意識の中から消えてしまっても、細胞が覚えていることがある。

昔ながらの動きを、実践を通じて取り戻すことで、身体の中に眠っている記憶を呼び覚ます。

小手先ではなく、手間をかけること。

なるべくじっくり、なるべく丁寧に、DNAを起こすのに十分な時間をかけて、布と、染料と、染める時間そのものと向き合っていく。

その事に強い動機を持っています。

おそらく僕がそのような意志を強く持っている理由は、原発の存在にあります。

なるべくたくさん、なるべく早く、なるべく楽に、なるべく安く。

そのような暮らしの延長線上に、原発に依存する暮らしがある。

誰かが手間を怠ると、その手間を誰かが背負うことになる。

楽で便利な暮らしを、ハイリスクで手間のかかる原発の運転を支える人々が支えている。

そのことへの強烈な違和感と、実際に原発の運転を支えている人達との交流を通じて味わった強烈な悲しみが、自分の暮らし方を根本的に見つめ直したいという強い思いにつながっているような気がしています。


暮らしの中にあるものをなるべくじっくり見つめたい。
そのひとつひとつとの関係性を見つめ直していきたい。
その事に時間をかけていきたい。
ひとつひとつの仕事への感謝と敬意を取り戻していきたい。
そのために、素材や道具のひとつひとつとの付き合いをリハビリしていきたい。
という思い。

そして、体の中、暮らしの中に眠っている記憶を起こし、新しい暮らしを丁寧に始めていきたいという思いがあります。

無地で染めていると、自分の心のムラに気づかせてもらえます。
焦る心、雑な心。
心を映す澄んだ鏡のようです。

貴重な植物の持つ色素を丁寧に扱って染め上げていく。
納得のいく染めには、一生涯かけてもたどり着けないかも知れません。
その道程についても、焦らず、丁寧に、一歩ずつ。

無地の染めはリハビリのようであり、瞑想のようです。





・・・

さてさて。

ごくたまに行うのは、紐による絞りと、板と万力を使った板締めです。




これは布をねじってから紐を入れています。









板締めはこんな感じ。
この時使っているのは、工房の床張りに使った吉野杉の間伐材の端材。
湯に浸すと木の香が立ち込めます。







これは、布を蛇腹折りしてから紐を入れてます。






媒染液に入れるとこんな感じです。
万力が他の布に当たると、そこに色ムラができたりするので、
タライの容量に合わせて染める量を決めます。





蛇腹折りしてから藍錠と黒の弁柄で染めたりします。
日本のタライのサイズは、日本の布(小幅布)のサイズにあっています。





これは白と赤の弁柄を混ぜています。





茜染めした後に、黄色の弁柄を入れています。




無地で茜染めしたあとに、ねじってから麻紐を入れています。
太めの麻紐を使っています。




そしたらこんな感じになりました。
生地はヘンプ100%です。
この形のストールは随時オーダーメイドを承っています。


生地を木に巻き付けて、軽く絞って染めています。




そうすると、こんな感じになります。





これは板締めによる茜染めです。




これは蛇腹折りした布を麻紐で縛って茜染めしました。



これもです。




これも麻紐による絞り。






これは板締め。





これは板締めと、麻紐による絞り。





板締めした布の、広げる前の状態。



広げるとこんな感じ。


こんな感じ。




無地。


無地の茜染め麻褌。



無地のヘンプストール。




以上。

今後はどんな染めをしていくことになるのでしょう。

お導きのままに。